【エルサルバドル】治安が大幅改善!ビットコインの普及はどうなった?

エルサルバドル

「エルサルバドルの殺人率が大幅に低下している」というニュースをご覧になったことはありますか?

かつて中米最恐の国とも言われたエルサルバドルですが、大きな転換期を迎えています。

数年前に「ビットコイン」が法定通貨になったことでも知られていますが、普及状況はどうなっているのでしょうか?

今回はそんなエルサルバドルについてご紹介します!

エルサルバドルの基本情報

首都:サンサルバドル
人口:約650万人
面積:21,040km2(埼玉・栃木・群馬・茨城の合計よりやや小さい)
人種:メスティーソ90%、白人9&、先住民1%
宗教:カトリック57%、プロテスタント33%
通貨:米ドル、ビットコイン

エルサルバドルは太平洋に面しており、中央アメリカの中でカリブ海に面していない唯一の国です。

エルサルバドルはスペイン語で「サン・サルバドル(聖なる救世主)」という意味で、侵略したスペイン軍が砦を築いたときの名前が元になっています。

2021年に暗号資産「ビットコイン」を通貨として世界で初めて法定通貨としたことでも話題になりました。

1分でわかるエルサルバドルの歴史

photo by jorono on Pixabay

16世紀までは先住民が小国をつくり暮らしていました。

1524年にスペインの侵略が始まり、4年後にはエルサルバドル全域が征服されました。その後グアテマラ総督領(当時のスペインの行政区)となり、現在のグアテマラ、コスタリカ、ニカラグア、ホンジュラス、メキシコの一部と共にスペインの管理下として開発が進みます。

19世紀前半にはスペイン独立戦争の影響を受けグアテマラ総督領がスペインから独立します。中央アメリカ連邦に加入しますが、自由主義エルサルバドル派と保守グアテマラ派の内戦により中央アメリカ連邦は崩壊してしまいます。このときエルサルバドルとして一旦独立し、連邦再建を計りホンジュラス、ニカラグアとともに中央アメリカ大共和国が設立するも1898年には崩壊します。

20世紀には世界恐慌の煽りを受け社会が不安定になるなかでクーデターが発生し、その後も幾度となくクーデターによる政権交代が起こります。第二次世界大戦後には中米統合機構の発足と恩恵を受けエルサルバドルは国内情勢が安定しますが、隣国ホンジュラスとの経済摩擦や国境・移民問題などが1969年のFIFAワールドカップ予選の試合により爆発し、戦争になっていしまいます(サッカー戦争)。

戦争後エルサルバドルは再び不安定になり、極右勢力による弾圧・テロが勃発します。その後も右派政府「民族主義共和同盟(ARENA)」と左翼ゲリラ「ファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)」による内戦(エルサルバドル戦争)が続き、反米組織FMLNに対抗するため政府がアメリカからの支援を得ることで戦争は泥沼化していきます。1992年に国連の仲介を経てようやく和平し、現在に至ります。

現在、二大政党ARENAとFMLNではない第三の政党から選ばれたナジブ・ブケレ大統領が国を治めています。

エルサルバドルの治安

2014年から2018年まで、人口10万人あたりの殺人事件発生件数が武力紛争当事国を除いた中では世界で最も高い国といわれてきたエルサルバドル。過去から現在まで治安状況はどのように変わってきたのでしょうか?

大幅改善した治安

2024年のGPI(世界平和指数)によると、エルサルバドルは前年より21位ランクをあげ世界107位注1)になりました。31位ランクを上げたUAEに続き2番目に順位を上げた国になります。

2023年のデータでは、人口10万人あたりの殺人発生率は2.4件と、世界最悪だった15年の103件から40分の1以下に低下(注2)しました。

最恐国といわれた過去

内戦の影響

上記歴史からわかるように、エルサルバドル内戦では12年間の間に約75,000人が亡くなりました。内戦は1992年に終結したものの、戦争で多くの人が生活基盤を失い、社会不安や経済的な混乱が残りました。また、元兵士たちが職を失ったため、犯罪に手を染めるケースも増えました。

アメリカの影響とギャング組織の拡大

内戦の影響を受け約50万人のエルサルバドル人がアメリカに移民しました。現在もアメリカ国内の中米コミュニティでは最大となっているのがエルサルバドル系アメリカ人で約250万人が暮らしていると言われています。仕事で得たお金を本国に送金している人もいますが、ヒスパニック系移民の中でも学歴、収入がやや低い状況です。

1990年代以降、エルサルバドルではギャング(マラス)が急速に台頭しました。特に「MS-13(マラ・サルバトルチャ)」や「バリオ18」といったギャングが国内外で力を持つようになりました。これらのギャングはアメリカで生まれ、米国からの強制送還者と共にエルサルバドルに広まり、暴力や麻薬取引などで地域社会を支配しました。ギャング同士の抗争も治安悪化の一因です。

教育格差と貧困

エルサルバドルは国民の4割が貧困層とされています。富裕層と貧困層との間では高等教育への進学率に大きな差があり、また富裕層は安全で質の高い教育が受けられる私学校へ入学させますが、貧困層が進学する公立校ではギャングへの勧誘が行われており、所得と教育格差には相関関係があるとされています(注3)

麻薬密輸ルートである地理的な要因

エルサルバドルは南米と北米を結ぶ麻薬密輸ルートの中継地点です。ギャングが麻薬取引をビジネスとしているため、犯罪が蔓延しがちで、これはほかの中米諸国でも同様の問題とされています。

どのように治安改善したのか?

非常事態宣言とギャングの逮捕

2022年3月にブケレ大統領は、ギャングによる暴力事件の急増を受けて非常事態宣言を布告し、現在まで続いています。非常事態宣言のもとでは、令状なしでの拘束や長期間の拘留が認められており、結果6万1300人以上のギャングメンバーが逮捕・収容されました。特に、MS-13やバリオ18などの主要ギャング組織のメンバーが次々と逮捕され、彼らの活動が制限され、大規模な逮捕はギャングの勢力を削ぎ、街の治安改善に直結しました。

「テロリスト収容センター(CECOT)」の建設

ブケレ政権は、エルサルバドル国内で最も危険な犯罪者を収容するために、専用の大型刑務所「CECOT(Centro de Confinamiento del Terrorismo:テロリスト収容センター)」を建設しました。この刑務所は厳重なセキュリティ体制を整えており、ギャングメンバーが組織外と連絡を取ることを徹底的に遮断しています。この施設によって、ギャングが刑務所内から犯罪を指示することが難しくなりました。また刑務所内には終身刑にされている囚人が多く、刑を終えるまでは釈放されません。

日本のテレビ局TBSが現地取材をした映像

犯罪組織への徹底的な経済制裁

ギャング組織は収入源として恐喝や麻薬取引に依存していましたが、ブケレ政権はこうした資金源を断つために、犯罪組織の資産を凍結したり、資金の流れを徹底的に監視する体制を整えました。これにより、ギャングの経済力が大きく削がれました。

若年層取り込みへの厳罰化

以前は若者への勧誘が積極的に行われていましたが、未成年への勧誘は重罪となりました。また若者がニュースを見た時にギャングを憧れの対象としないよう、報道の際は英雄視する表現や活動促進をする内容を法律で禁止されています。

エルサルバドル人の反応は?

ナジブ大統領は90%を超える高い支持率(注4)を得ており、政策に対する国民評価は高いといえます。

一方でギャングメンバーの人権や誤認逮捕などの観点から反対する人の声もあります。

著者
著者

フィリピンのドゥテルテ元大統領も同様の強硬政策を打ち出して、賛否両論ありましたね。誤認逮捕など問題も多くありましたが、フィリピン(特にミンダナオ地域)は治安が大幅に改善されました。

エルサルバドルのビットコインの近況

エルサルバドルでのビットコイン普及状況

エルサルバドルでは法定通貨としてビットコインを導入し、政府は「Chivo(チボ)」というビットコインウォレットを開発し、国民に無料で提供しました。政府はChivoウォレットをダウンロードした人にビットコイン30ドル分を提供し、これを使ってビットコイン取引を始められるようにしました。

現在銀行口座よりもライトニングウォレットを持つ人が多いとされていますが、国民の10%ほどしか使用していないと言われています。原因はインターネット普及がまだ不十分であること、国民のほとんどがビットコインが何なのかよく理解できていないためです。

ビットコインは現在最高値を更新しており、エルサルバドル政府が購入したビットコインも値を上げ続けていますが、導入・維持費にかかったお金を回収するところまでは至っていないそうです。ビットコインの導入が成功か失敗かは、もう少し後でわかるのかもしれません。

記事を作成する際に参考にしたサイトはこちらです

(注1)Global Peace Index Map: https://www.visionofhumanity.org/wp-content/uploads/2024/06/GPI-2024-web.pdf

(注2)エルサルバドル人のアメリカの移民状況:https://www.pewresearch.org/fact-sheet/us-hispanics-facts-on-salvadoran-origin-latinos/

(注3)エルサルバドルにおける就学先選択による犯罪への影響:https://economia.lse.ac.uk/articles/10.31389/eco.61

(注4)エルサルバドル大統領の支持率:https://www.statista.com/statistics/1264586/approval-salvadoran-president-bukele

エルサルバドルにおけるビットコインの使用:https://news.yahoo.co.jp/articles/9c4a0ab6ab0ae5d95b1c3b6b586458dc8fba6050

エルサルバドルにおけるビットコインの成果:https://www.bbc.com/news/technology-67637245

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